遺言書の書き方・費用について弁護士がイチから解説します!

「遺言書って書いた方がいいのかなぁ?」「自分でも書けるの?」「書く時の注意点は?」「費用はどのくらいかかるの?」・・

少子高齢化が進む中,自分の人生の終わりについて考える「終活」という言葉が広がっています。そして「終活」の一つとして、自分が亡くなった後の資産を誰に遺すかを明らかにするため,「遺言書」を作る方も増えています。

しかしいざ自分で「遺言書」を作る,となると,「大変そう」と感じる方は多いのではないでしょうか?

このブログでは、家庭裁判所勤務歴の長い弁護士鈴木が,遺言書を作るかどうか,どう作ればいいのかお悩みの方に、遺言書の意義や書き方のルール,費用についてイチから解説します。

本記事の内容

  • 遺言書を作成した方がよい場合とは?
  • 遺言書を書くための7つのルール
  • いくらかかるの?~遺言書作成の費用

 

遺言書を作成した方がよい場合とは?

遺言書を書いた方がよい場合とはどのような場合なのでしょうか?ひとことでいえば,

「法定相続分」以外で遺産を遺したい場合

です。

「法定相続分」とは?

「法定相続分」とは,人が亡くなった場合に遺産が引き継がれる原則的なルールです。

この「法定相続分」は「民法」という法律に定められています。具体的には次のとおりです(民法900条)

  • 妻(夫)と子どもが相続人のときは,2分の1ずつ(民法900条1号)
  • 子どもがなく,妻(夫)と,父母又は祖父母など(「直系尊属」といいます。)が相続人のときは,妻(夫)が3分の2,父母など(直系尊属)が3分の1(民法900条2号)
  • 子供及び「直系尊属」がなく,妻(夫)と,兄弟姉妹が相続人のときは,妻(夫)が4分の3,兄弟姉妹が4分の1(民法900条3号)

なお,子どもなどが数人いる場合は,その相続分は均等割となります(民法900条4号)。例えば妻(夫)及び子どもが2人の場合,相続分は妻(夫)が2分の1,子どもは2分の1÷2人で4分の1ずつとなります。

  • 妻(夫)がなく,子どもだけがいる場合,その相続分は子どもの人数による均等割となります(子どもが3人であれば相続分は3分の1ずつ)。父母などの「直系尊属」だけがいる場合や,兄弟姉妹だけがいる場合も基本的な考え方は同じです。

 

もし自分が亡くなった場合,この「法定相続分」で遺産が引き継がれても問題がなければ,あえて遺言書を作成する必要はないといえるでしょう。(ただし相続人が2人以上いる場合,遺産は相続人の「共有」となってしまい(民法896条),相続人各自の単独名義とする場合には別に話しあいをしなくてはならない場合があるので注意が必要です。)

もし「法定相続分」で引き継がれては都合が悪い場合には,遺言書を作成し,自分の財産の遺し方を明らかにしておくのがよいでしょう。

例えば次のような場合です。

  • 夫婦で子供がなく、他に兄弟姉妹だけがいる場合

妻(夫)にすべての財産を遺したい場合,その内容を遺言書に記載しておくのがよいでしょう。法律上,遺言書があっても法定相続人に最低限認められる「遺留分」という権利が定められていますが,兄弟姉妹にはこの「遺留分」が認められていないので(民法1042条1項),確実に全財産を遺すことができます。

  • 面倒をよくみてくれた子どもにより多くの財産を遺したい場合

子どものうち特に面倒をみてくれた子がいた場合,その子により多くの財産を遺してあげたいと考える場合もあると思います。その場合には遺言書を作成し,より多くの財産をその子に相続させると記載しておくのがよいといえます。

ただしこの場合はその他の子に先ほどの「遺留分」が定められているため(法定相続分の半分です,民法1042条1項2号),全部の遺産価値をその子に引き継げない場合もあります。

  • 子供の妻(夫)に財産を遺したい場合

例えば,長男の妻(長女の夫)が献身的に尽くしてくれた場合でも,長男の妻(長女の夫)は法定相続人にはあたらず,直ちに相続人として権利を行使することはできません(ただし最近の改正により,「特別の寄与」があった者として金銭の支払を請求する権利が認められるようになりました(民法1050条以下))。

そこでこのような立場の人に財産を引き継がせたい場合には,遺言書を作成し財産を贈る(遺贈する)としておくのがよいといえます。

  • 再婚で、以前の妻(夫)との間に子どもがいる場合

この場合,前妻の子ども側と後妻側で争いが生じる例が多いとされています(例えば「熟年再婚」の場合)。

そこで現在の妻やその子に財産を多く遺したい場合には,そのような内容の遺言書を作成しておくことが考えられます(ただし前妻の子どもには「遺留分」がある点は注意が必要です。)。

  • 法定相続人が誰もいない場合

法定相続人がいない場合(内縁関係である場合など),原則として財産は国に帰属することになります(民法958条)。(ただし,生前に特に関係が深かった人(「特別縁故者」といいます。)に対し財産が分与される制度はあります(民法958条の3)。

そこで,生前にあらかじめ財産を遺したい相手がいる場合(親友,寄付したい施設など),その相手に財産を贈る(遺贈する)との遺言書を作成するのがよいといえます。

 

遺言書を書くための7つのルール

遺言書は自分で書いて作成することができます。このようにして作成する遺言を「自筆証書遺言」といいます(民法967条)。自筆証書遺言は手軽に作成できるメリットがありますが,他方法律上の記載条件を満たさず無効とされてしまうリスクがあります。そこで自筆証書遺言を作成する際に気をつけるべき7つのポイントを説明します。

ルールその1~基本「全部手書き」

自筆証書遺言をする場合,遺言の全文,日付及び氏名を「自書」しなければなりません(民法968条1項)。パソコンで作成したりICレコーダーに遺言の内容を吹き込んで作成したりすることはできません。

ただし平成30年の相続法改正で,相続財産の目録を作成する場合に,目録部分は自書が不要となりました。例えば土地を何十筆も持っていた場合,その土地の地番や面積などをいちいち手書きしていたら大変ですよね?そこでこのような場合,土地の地番などの表示はパソコンなどで目録を作ってもよいとしたのです(民法968条2項)。

もっともこれは目録部分に限った話で,遺言書の本文については自書が必要ですから注意が必要です。

ルールその2~どの財産を誰に遺すか明らかに

遺言書では,「どの」遺産を「誰に」遺すかをはっきり書いておくべきです。「遺産の3分の1を」「相続分の2分の1を」といった記載では,引き継がれる遺産の割合しか定まらず,結局どの遺産を誰が引き継ぐのか後でもめてしまうリスクがあるからです。

特定の遺産はAさんに遺すが,それ以外はすべてBさんに遺したい場合には,

「その他一切の遺産」をBさんに遺す』とすれば大丈夫です。

ルールその3~末尾は「相続させる」「遺贈する」

遺言書の文章の末尾は,法律上の効果が生じるか否かを左右するものですから,よく調べて明確な表現を用いるべきです。「私が死んだら先祖代々の土地をあげることを約束します」などの表現は,どのような法律上の効果が生じるのか意見が分かれうるので,後々もめた際無効とされてしまうリスクがあります。

ではどのような表現がよいのでしょうか。ネットを検索すると遺言書の文例が数多く出てきますが,その末尾の表現は「相続させる」「遺贈する」とされていることが多いと思います。どちらを使うかの見分け方のポイントは,

  • 「相続させる。」→法定相続人に遺す場合
  • 「遺贈する。」→法定相続人「以外」に遺す場合

です。

法定相続人は,本来遺言書がなくても「相続」する権利が当然ある人です。そこで遺言書でも「相続させる」という表現を用います。これに対し法定相続人以外に財産を遺す(内縁の相手方やいとこに引き継ぐ,NPO法人に寄付する,など)場合には,「相続」する権利がない人(団体)に「相続させる」という表現は使えないので,「遺贈する」という表現となるのです。各種文例を参考にして遺言を作成する際にはこの点をチェックしましょう。

 

ルールその4~作成日付は明らかに

遺言書には作成した「日付」を自書しなければなりません(民法968条1項)。この「日付」が明確でない場合(「4月吉日」など)には遺言書全体が無効とされてしまうので注意しましょう。

遺言書は一度作っても,また改めて作り直すことができます。作り直した場合は後の遺言で前の遺言が撤回されたものとみなされるので(民法1023条1項),作成者が亡くなる直前に作成した遺言書が法律上有効となります。遺言書の「日付」はその有効性を判断するために極めて重要な記載事項なので,日付の記載が明確でない場合,その遺言書は無効とされているのです。

ルールその5~一人一人別々に作る

たとえ夫婦であっても,夫婦連名で一通の遺言書を作成することは避けましょう。遺言書は二人以上の者が同一の証書(用紙)ですることができないとされており(民法975条),これに違反した遺言書は無効とされてしまうからです。

ルールその6~印鑑は朱肉で押すタイプを

遺言書には,作成した人が印を押さなければならず(民法968条1項),印の押していない遺言書は無効とされてしまうので注意しましょう。

押す印鑑は,通常は実印を押すでしょうが,認印であっても無効とはなりません。ただ朱肉で押すタイプではないスタンプ式のもの(シャチハタなど)は避けるのがよいでしょう。

指に墨や朱肉を付けて遺言書に押した場合(拇印)でも,それだけで直ちに押印の要件を欠き無効とはなりません。ただし「本当に遺言した人の指印か?」で後々もめるリスクが高いですから,印鑑で押印するのが無難でしょう。

ルールその7~封筒に入れ封印しましょう

実は法律上,遺言書を封筒に入れて封をしておいたり,銀行の貸金庫に入れて保管したりすることは必要ではありません。むき出しのまま机の上に放置してあっても,書くべきことが書いてあれば有効な遺言書として扱われます。

ただむき出しのままの遺言書を親族が見て,これをきっかけに家族でもめてしまうような事態を避けるためには,遺言書は封をして封印しておくのがよいでしょう。封筒には自分の死後遺言書であることがわかるよう,表面に「遺言書」などと書いておくのが相当です。

いくらかかるの?~遺言書作成の費用

自筆証書遺言は所定の要件を守って自分で書けば作成できます。遺言書用の用紙があるわけでもなく,便せんやコピー用紙でも問題ありません。ですから作成費用としては紙代とインク代だけ,といえそうです。

ただしこれは遺言の作成者にとっての話です。実際に遺言を作成した人が亡くなった場合,その後遺言を発見した人が所定の手続をする必要があり,その手続のための費用を負担する必要が出てきます。

 

自筆証書遺言の場合は「検認」手続が必要

 

遺言書を発見した人は,家庭裁判所にその遺言書の「検認」を申立てなければなりません(民法1004条)。

「検認」とは,簡単にいうと遺言書の状態を「現場検証」する手続です。例えば交通事故が起こった場合,警察に通報するとすぐパトカーが来て現場の写真を撮ったり事故の関係者から事情聴取したりしていますよね?「検認」も同様に,遺言書が発見された状況や遺言書の状態を,コピーを取ったり相続人から事情を聴いたりして記録に取ります。記録に取ることで,後で誰かが遺言書の記載を勝手に書き換えたりしても「偽造だ!」ということがわかるようにしておくのです。

しかしこの「検認」の手続は,意外と費用や手間がかかります。遺言をした人の相続人の戸籍謄本を大量にそろえなければならないこともありますし,書類がそろい家庭裁判所に申立てをしても,少なくとも1月以上は待たなければなりません。自筆証書遺言の場合には,遺言作成者が亡くなった後,親族ら関係者に手間や費用をかけさせてしまう可能性があるのです。

公正証書遺言の場合は「検認」不要

これに対し,公証役場で「公正証書遺言」(民法969条)を作成した場合,「検認」の手続は不要です(民法1004条2項)。

公正証書遺言は,公証役場という公的機関において,公証人という法律のプロが立会いの下作成するものです。ですからわざわざ遺言書の状態を「現場検証」する必要もないですし,何よりも法律上明確な形で遺言書を作成できます。後の紛争を確実に防止するためには,自筆証書遺言よりおススメな方法といえます。

ただ公正証書遺言は作成費用がかかります。一般的な相場は約10万円から15万円といわれています。費用的な面から公正証書遺言作成に二の足をふむ場合があることも事実でしょう。ただ後の遺産相続の争いを確実に防止する観点からは,公正証書遺言の作成も積極的に検討してよいと思います。

 

新制度誕生!~自筆証書遺言の保管制度

「遺言を作成する費用はかけたくないし,かといって後で「検認」で残された親族に迷惑もかけたくないし・・。」とお悩みの方もいると思います。

この場合,平成30年の相続法改正で新たに設けられた「遺言書保管制度」の利用も考えてよいかもしれません。

 

「遺言書保管制度」は,作成した自筆証書遺言を「法務局」で保管してもらう制度です。保管の申請費用は1件当たり3900円とされており,また「遺言書保管制度」を利用した自筆証書遺言は「検認」手続が不要とされています(遺言書保管法11条)。

ただし,「遺言書保管制度」の場合,自筆証書遺言の「形式的なチェック」しかされないので,遺言書の内容の「実質的なチェック」はされません。そこで遺言書の効力を確実に生じさせるためには,作成した自筆証書遺言について,弁護士や司法書士などの法律専門家にチェックしてもらうのがよいでしょう。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?この記事が,遺言書を作るポイントについて理解するヒントになれば幸いです。遺言書の作成は,自分のこれまでの人生を振り返り,今後どう生きるかを考えるよい機会といえるでしょう。遺言書の作成について疑問やお悩みがあれば,ぜひ弁護士などの専門家にお気軽に相談下さい。遺言書は英語で「will」といいます。納得のいく遺言書を作成し,希望に満ちた人生を送りましょう!

 

 

 

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