コロナ禍で突然のクビ!
新型コロナによる経済状況の急激な悪化から、急に解雇を宣告された労働者が増えています。でも解雇は本来、雇用主の一存でできるものではありません。解雇が法律的に有効となるには、厳しい条件があります。
突然の解雇宣告でも慌てることがないように、解雇に関する正しい知識を身につけましょう。泣き寝入りせずに、正しく主張すべきことを主張して、自分や家族を守りましょう。
突然のクビ宣言に驚く雑貨店勤務・花子さんの例
オーナーに呼び出された花子さん

オーナー、何かありましたか?

言いにくいんだけど、来月いっぱいで辞めてもらいたいんだ。花子さんもわかると思うんだけど、コロナでしょ?
お客さんは来ないし、売り上げは去年の2割もないし。この状況はわかってくれるよね?

お店が大変なのは感じてました。でも私には家族がいますし、いきなり辞めてくれと言われても困ります。
コロナで次の仕事がいつ決まるかわからないですし。

でもウチも限界なんだよ。花子さんが自分から辞めないなら、解雇ってことに。

解雇って何ですか?!ニュースで懲戒解雇という言葉を聞いたことがありますが、私は悪いことはしていません。真面目に毎日頑張ってます。
真面目に日々の業務に取り組んでいた花子さん。突然クビと言われたらショックですね。

懲戒解雇ではなく人員整理のための整理解雇、リストラだよ。

懲戒解雇?リストラ?どういうことですか?
クビにも種類があるの??花子さんは突然の解雇宣告に頭を悩ませています。
そもそも解雇って?
雇用主が一方的に労働者との雇用契約を解約することが一般に解雇といわれています。
ちなみに雇用契約とは、労働者が雇用主の指揮命令の下ではたらき、賃金を受け取る契約一般を指します。正社員・アルバイト・パートなど勤務スタイルは問いません。

解雇について、法律上の決まりはありますか?

民法では、働く期間の定めがない雇用契約の解約について2週間前に労働者に解約(解雇)すると伝えればよいとされているだけです。(※民法627条)
雇用主は2週間前に「解雇するよ」と伝えればいつでも労働者のクビを切れることになります。
(※民法とは・・・私たちの社会の取引についての原則を定めている法律で、雇用契約についての原則も定めています。)
これでは労働者は安心して働くことが出来ませんよね?そこで労働者を守るために労働契約法という法律が民法の原則を修正しています。
労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
オーナーは花子さんを解雇する権利はあります。でも、解雇する権利を濫用していたら解雇は無効です。花子さんは引き続き働いて給料をもらう権利があります。
解雇が濫用になる場合ってどんなとき?
オーナーの説明に納得がいかず、解雇についてネットで調べる花子さん

解雇も濫用の場合は無効なのね。でも濫用の場合って何かしら?
雇用主の解雇が濫用といえる場合、解雇は無効となります。濫用に当たる基準は2つあります。
❶就業規則の解雇事由に当たっているか?
就業規則という言葉を聞いたことがありますか?就業規則とは、はたらく時間や給料、お休みや退職について定めた会社のルールです。
就業規則は労働基準法に基づき、解雇や退職に関する事項が必ず記載されています。
勤め先の就業規則を確認してみましょう!
就業規則と労働基準法
- 常時10人以上労働者を雇っている雇用主は就業規則を労働基準監督署に届出をしなければなりません(労働基準法89条)
- 就業規則には(解雇の事由を含めた)退職に関する事項を必ず記載しなければなりません(労働基準法89条3号)

就業規則に書いてある解雇できる場合に当たらないのに解雇した場合は「濫用」と判断されやすいといえます。
就業規則には「勤務状況の著しい不良」「懲戒事由(横領等)があった場合」などの解雇できる場合がいくつか記載された後に「その他これらに準ずる『やむを得ない事由』があった場合」と書かれています。よって、❶の事由で解雇の濫用とされるケースは少ないでしょう。少なくとも「花子さんの顔が気に食わない!」という理由では「やむを得ない」とはいえません。
❷解雇が真にやむを得ないか?
解雇以外に他の解決策や対処法がなかったのか?ということです。
例えば、1度だけ会議に10分ほど遅刻しただけで「勤務状況の著しい不良」があるとして解雇されたら困りますよね。
1度の遅刻であれば、注意喚起を促すことで改善する可能性があります。この場合にいきなり解雇とすれば濫用にあたるといえるでしょう。
整理解雇って?無効になる場合とは?

じゃあ私のクビは整理解雇ってことかしら?確かにコロナで店が大変なのはわかるし。
お店は私をクビにする以外の方法はないのかしら?
整理解雇とは、労働者に落ち度はないが雇用主の都合(業績の悪化、経営不振など)で人員を整理する場合の解雇をいいます。
要するに、会社が一方的に労働者を「クビ」にするものです。
アメリカなどの諸外国と比べて、日本は終身雇用制が長く続いていました。よって、日本では整理解雇は最終手段であって、雇用主がありとあらゆる手段を尽くして(希望退職者の募集、一時休業、新卒の採用中止など)それでもダメだった場合に限って初めて許されるものという考え方が色濃く残っています。この考え方は、整理解雇について争われた裁判の判決の分析からもうかがえます。整理解雇も他の解雇の場合と同様に「真にやむを得ない」といえる場合でなければ、解雇する権利の濫用として無効とされます。
ではどのような場合に「真にやむを得ない」といえるのでしょうか?
やむを得ない解雇4つのポイント
整理解雇が真にやむを得ないといえるかどうかを判断する場合、下記の4つのポイントがあると考えられています。
❶人員整理がそもそも必要か?
大前提として、人員削減が本当に必要か?が判断の1つめのポイントになります。経営の大ピンチを理由とする整理解雇(リストラ)であるといいつつ、実は「大ピンチ」でなかったなら、そもそも大前提が欠けていますよね。整理解雇の一方で業務拡大のため新規採用を増やすなどしていた場合は整理解雇が不必要に行われたものとして「濫用」と判断される可能性が高いといえます。
❷雇用主が解雇を避けるための努力を本当にしたか?
経営が大ピンチの場合でも、雇用主としては労働者をクビにせずに経営を建て直すためのあらゆる努力をするべきです。一時休業や残業削減、希望退職者の募集などの努力もせずに「人件費を削るためには仕方ない」と安易に整理解雇を行えば、解雇権の「濫用」があり無効と判断される可能性が高いといえます。
❸誰を解雇(リストラ)するかの基準が変でないか?
仮に❶❷がクリアされれば、雇用主が整理解雇をする必要性自体はあるといえます。しかし花子さんを解雇することが直ちに適法にはなりません。なぜ他の労働者ではなく花子さんを解雇したのか、解雇される人を選ぶ基準が合理的である(=変でない)かどうかも「濫用」かどうかを判断するポイントになるのです。
例えば女性から解雇するならば、解雇の対象者として選ぶ基準が合理的でなく濫用として無効とされることは当然でしょう。しかしどのような基準が合理的かは評価が難しいといわれています。
・若手から選ぶのがよいか(←転職活動しても支障がない)
・年配者から選ぶのがよいか(←退職金を若干上乗せすれば不公平でない)
など、いろいろな主張がありうるところですし、裁判でも判断が分かれる可能性があります。
❹解雇までの手続は合理的か?
仮に❶❷❸がクリアされ、整理解雇がやむを得ず、解雇する人を選ぶ基準も合理的といえる場合でも、やり方が乱暴であれば濫用と判断されることがあります。
例えば整理解雇について何の説明もなかったのに、ある日突然「1週間後に解雇する」と通告するなど、労働者に十分な説明や協議といった手続をふまなかった場合に濫用と判断される可能性があります。
コロナ禍での解雇はどう判断されている?

確かにコロナで店の経営が大変なのは事実だろうな。経理の山田さんにも解雇の話があったみたいだし。仕方ないってことなのかなあ?
コロナ禍の今、具体的に裁判所は濫用の有無をどのように判断しているのでしょうか?この点で最近注目すべき判断がされた裁判例があります。
事例は新型コロナの影響で業績が悪化したとして、タクシー会社(雇用主)が運転手を整理解雇したのに対し、運転手(労働者)が解雇の無効を主張して争ったもの(仮処分命令の申立事件)でした。
裁判所は、仮に雇用調整助成金を申請していれば休業手当の大半が補填できたとして、(運転手が従業員であることを前提に)賃金の一部を1年間仮に支払うよう命じました。(仙台地裁令和2年8月21日決定)
タクシー会社は雇用調整助成金制度を利用していなかったのです。

雇用調整助成金とはどんな制度なのかしら?オーナーも利用したらピンチを乗り切れるかしら?

金融危機や地震、台風などによる景気変動で、雇用主が事業活動の縮小を余儀なくされる際に、雇用主が従業員を解雇せず、一時的に休業してもらうなどして雇用を守った場合に、休業中に従業員に支払う休業手当や賃金などの一部を国で助成するものです。
労働基準法26条
雇用主の都合で従業員を休業させる場合、雇用主は原則として給料の60%以上を休業手当として労働者に支払う必要があります。
もちろん地震や台風、金融危機、そしてコロナは雇用主のせいではありません。雇用主が従業員(労働者)を休業させたとしてもそれは雇用主の都合ではなく、直ちに休業手当を支払う法律上の義務は生じません。しかし実際に雇用主が休業手当を支払って雇用を守った場合には、雇用調整助成金で国がサポートする仕組みとなっているのです。
そしてこの仙台地裁の決定は、解雇が無効か否かの判断を分ける上記の4つのポイントのうち、使用者が解雇を避けるための努力を本当にしたか?(❷)について注目すべき判断をしたものといえます。この決定は、雇用主は解雇を極力避けるために、希望退職や新卒採用の抑制などの努力はもちろん、雇用調整助成金などの国の支援制度などもきちんと調べて利用しないと、解雇を避けるための努力を尽くしたと裁判所に判断してもらえず、解雇が「濫用」と判断される可能性があることを示したものといえるからです。
解雇が不当と思ったら
これまでみたように、日本では雇用主からの一方的な「解雇」は簡単に認められず、裁判では解雇権の「濫用」がないかが厳しく判断されています。この考え方自体は、新型コロナを理由とする解雇の場合でも基本的には変わるべきものではありません。解雇と告げられても「コロナだし仕方ない」と諦めずに、まずは労働問題を扱う団体や労働組合、労働局の相談窓口や弁護士に相談してみましょう。
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